夏休みの宿題

 とういことで正月の種総集編を痛みに耐えてくぐりぬける企画に引き続き、種デス総集編を振り返る企画がようやっと任務完了いたしました。この企画の目的は、どの辺がウケたのかを考えてみよう、或いは、文句を云うにもまず一度見てから、主にこの2点と思われます。以下シリーズを通しての雑感など。


 考察対象…機動戦士ガンダムSEED、同DESTINY(それぞれTVシリーズの総集編)

 気付いたこと
  1)ラクス・クラインこそが絶対正義の体現者であるらしい
  2)自分に都合の悪い事は「クッ」の一言で華麗にスルーしてよいらしい
  3)基本的にノープランで、時々の感情に身を任せればよいらしい
  4)アークエンジェル隊は客観的に見るとただのテロリスト集団である
  5)オーブは国家として何か間違っている
  6)メインキャラ4人(キラ、ラクス、カガリアスラン)の言動は理解不能
  7)軍規というものは破られるためにあるらしい
  8)種より種デスの方がなんぼかマシに見える


 1)作中しばしば見られる発言として「ラクス様」云々、或いは「本物のラクス様」云々というのが非常に気になる訳です。要するにかの世界において彼女はとても偉い人のようですが、何故(何を根拠にして)そんなに偉いのかはよく解りません。そこには理屈ではなくラクス・クラインラクス・クラインであるが故に正しいのだというよく解らん『信仰』が見えます。云ってみれば性質の悪いカルト宗教のようなものと同じ(ラクス様の歌に何らかの洗脳効果があるのではないかと疑われる)です。「カリスマ」と云えば聞こえはいいですが、プラントにしても国家としてはかなり危険な構造を抱えているのは間違いないと思われます。
 そして、彼女がキラとアスランに与えるMSの名前は「自由」と「正義」です。すばらしいネーミングですね。彼らの云う「力」(端的には武力)は『自らの』自由と正義を維持・拡張するためのものでしかありません。どうやら彼らは『世界』の代表として戦っているかのような口ぶりですが、個人的な感情に従っているようにしか見えないし、彼らの志向する『世界』はラクス様の絶対正義という秩序の下に築かれるもののようです。(このことに敬意を表し、彼女を「偉大なる首領様」と認定し、彼女の指導するテロ集団を「首領様親衛隊」と名付けたいと思います)


 2)続編の方でよく見られたシーンで、アスランやキラ(旧シリーズからの登場人物)がシンやレイ(新シリーズのメインキャラ)に責められ言葉に窮する訳です。いちいち尤もなツッコミで反論できないのでしょうが、それにしても目をそらして「クッ」と拗ねるというのは、いかにも情けない。普段何も考えずに行動している証拠です。あえて反論する場合もなんだかよく解らないことを云い出してあきれられる(電波と非電波では会話が成立しない)のがオチで、もはや気の毒ですらあります。


 3)これは旧シリーズから引き続き登場の方々に主に当てはまります。場当たり的な軽挙妄動で事態を徒に混乱させ悲劇的な結果をもたらしますが、あくまで被害者を装い責任逃れのいい加減な屁理屈をこねます。彼らは自らの行動による結果に一切責任を持ちませんし、責任を問う向きも余りありません。不思議な世界です。政治倫理とかそういったものは存在しないようです。


 4)旧シリーズの途中で地球軍に始末されそうになって後、軍を離脱して独自に動き始めるアークエンジェル隊は立派なテロ組織に見えるのは気のせいでしょうか。最新鋭の戦艦を切り捨てる軍上層部の考えもよく解りませんが、それはこの際どうでもよいでしょう。旧シリーズにおける活動は、まあ解らんでもない範囲ですが、新シリーズに至ってはもはや弁護する余地はありません。カルト宗教の指導者を奉じてテロ活動を行い、徒に戦火を拡大させている要にしか見えないし、実際彼らが横槍を入れた所為で被害が拡大したと思われる戦闘がいくつか確認されたいます。彼らというよりキラ・ヤマトというMSパイロットは彼の信念に基づき、敵パイロットの殺傷を避けて機体を撃墜しているようですが、問題はそんなことではありません。そのような形で戦闘に介入することにより、戦線は混乱をきたし不要な犠牲(特に民間人の犠牲)を著しく増加させているであろうということにこそあります。彼らのテロ活動はそのような皮肉な結果(およそテロ活動というのはそのようなものですが)をもたらしているということ、彼らの活動の圧倒的な負の側面は、見事にスルーされます。こんな欺瞞が許されていいのだろうかと甚だ疑問です。


 5)新シリーズ終盤件のテロ組織はオーブ正規軍に編入されています。これも大いに問題ですが、かの国政治指導者の倫理的な欠陥は目に余るものがあります。カガリ・ユラ・アスハにせよその父(先代の首長)にせよ、自らの信念とやらを優先し、自国民の安全を侵害することはなはだしい(この点は新シリーズの主人公シン・アスカの口から批判的に述べられる)。このような指導者をいただいていては国が滅びるのも道理というものですが、それでも国家として存続し不適格者がいつまでも主張の座にとどまることが許されているというのは、何かが間違っています。この世界に政治学を学ぶ人間は皆無のようです。


 6)何を考えているのかサッパリ理解できません。何も考えてないんじゃないのかとも思われます。新シリーズではちょいちょいツッコミを受けていましたが、「あんた一体何がしたいんだ!」とか「意味わかんない」とかいちいちナイスなツッコミでびっくりしました。ファンのみなさんはどの辺に共感できるのかぜひともご教授願いたいものです。


 7)これはどちらかというと旧シリーズに対する感想です。勝手に捕虜を逃がした場合の処置がアークエンジェルとミネルヴァでは全く違います。というか前者はめちゃくちゃ(非常識)な対応で後者は(割りあいに)普通のものだというそれだけのことですが。アークエンジェルという戦艦の中はとってもフリーダムな空間のようです。ルールは破るためにあるという言葉もありますが、それは普段は守られていることが前提で状況に応じて柔軟に対応するというだけのことであって、始めから全くの無秩序じゃ意味がない訳です。まあ、非合法集団に軍規もへったくれもないんですけどね。


 8)聞いていた話だと種よりひどいということでしたが、むしろ種デスのほうがマシなんじゃないかという気がしています。中心的に描かれるのがミネルヴァという比較的常識的な艦であり、主人公のシン・アスカもそこそこまともな思考回路を持ち合わせているのでなんぼか感情移入しやすいです。ミネルヴァのクルーはみんな常識的な人(元エースパイロットの人を除いて)で好きです。旧シリーズの登場人物たちへのツッコミが冴えまくりだし、気持ちがいいです。唯一つ、惜しむらくは最後の最後でシンちゃんがテロリストの勧誘を承諾してしまったことです。



結論(のようなもの)

 別に面白いと云って観る人を否定する気はありませんが、残念ながら私にとっては魅力的なものではないし、むしろ不愉快であるといえます。ガンダムスーパーロボット化とかストーリー上の説明不足とか、「どうよ、それは?」「なんでそうなるのよ?」という点がいくつもあるというだけでなく、思い入れを持って見られるキャラクターの圧倒的な少なさも大きな原因です。或いは私の側に問題があって共感できないのかも知れませんが、それでも何か割り切れなさが残るのは事実です。

 今後の課題としては、アニメ雑誌のバックナンバーから当時の記事を拾ってどのように受容されていたのかを考えてみる必要がありそうです。(シンちゃんが大いに不人気だったのは記憶がある。きっとキラやアスランをいじめるから嫌われたんだと思う)