津田雅美を考える

 今回のテーマはずばり「コマ割り」です。


 最近特に思うのですが、津田雅美のコマ割りは少女マンガにあって少し異質です。かなり特徴的であり、極端な話コマ割りだけで判別できるかもしれません。それは一言で云うなら「贅沢」であり、「単純」です。(既にどこかで指摘されている事かも知れませんが)

 以下、今月号(8月号)のLaLaから「eensy-weensyモンスター step9 8月の終わりはすこしほろ苦い」を例に検証してみます。


 カラー扉とその裏のサイン会の告知を合わせて32ページですから、本編は30ページあります。この総コマ数はなんと65コマで、1ページ当たり約2.15コマ。実際数えてみると思ってた以上に少ないです。

 この数字がどのくらいのものなのか、今月号の他の作品と比較してみましょう。葉鳥ビスコ桜蘭高校ホスト部 第52話」だと30ページ135コマで1ページ当たり4.5コマ、藤原ヒロ会長はメイド様! 第16話」だと31ページ(扉絵なし)176コマで1ページ当たり約5.68コマ。この二つは掲載の順番で津田雅美の前と後ろの一つずつに当たるもので、特にコマ数の多いものを選んだ訳ではありません(今度ヒマなときに他のも全部数えてみようかな)。

 コマ数の数え方自体に揺らぎがある(独立のコマなのかコマとコマの間の空白なのか判別しにくいものがあり判断が分かれる)ことと数え間違いの誤差を差し引いても、通常少女マンガのコマ数は1ページ当たり4コマを切ることは稀でしょう。これは読者の経験的な知識とも合致します。

 ですから、仮に平均的な少女マンガのコマ数をページ当たり4コマ強と設定するなら、今回の津田雅美の場合2コマちょいということで、通常の半分のコマ数ということになります。これはそれだけ1コマ1コマが大きいということであり、贅沢な使い方だと云えるでしょう。(試しに先月号も数えてみたけど、やはりほぼ同じ数値が算出された)


 ここまでは単順にコマの数を見ましたが、次はコマの使い方を見ていきます。

 大ゴマで人物がドーンと描かれるコマも多い(ページ2コマだしねぇ)のですが、その一方で誰もいないコマというのが結構な数存在します。

 これを数えると、15コマもある訳で、これも思ってたより多いです。全体の1/4弱が人物の一切ないコマに当たるをいう驚きの結果が算出されました。これらのコマは場面の状況を説明するものとして通常場面転換のために用いられるのですが、津田雅美の場合はこれに声(会話)をかぶせて使うことが(他の人より)多いのではないでしょうか。モノローグと風景が重なるというのは割とよく見るパターンですが、会話のシーン(状況説明的な台詞ではあるが)で当の人物は全く写さずに進行するというのは余りやらないような気がします。その一方で、人物は映っているものの台詞のないコマ(人物を含んでも背景的なコマは除く)というのもかなりあって、これを数えると9コマ。


 ここまで来ると当然の成り行きで、台詞の分量も少ないです(これはさすがに数えませんけど)。


 さらに、津田雅美に特徴的なコマ割りとして上げられるのが、ページをまたいだコマです。今回は見開きで1:3に分割するパターン(ページの半分と残り全部に分ける)が3例と1:1:4に分割するパターン(右端に細長いコマを2つ並べて右ページの残り1/3と左ページでを合わせて1コマにする)が1例あります。

 今回は出てこなかったものとして他には1:2:1に分割するパターン(見開きで右端、真ん中、左端の3分割)という例も過去にはあったはずです。


 もう一つの特徴的なコマ割りは、均等分割ゴマ(仮)です。今回は1ページに縦長コマ2つのパターンとページの上2/3を縦長コマで等分するパターンが使用されました。さらにこのコマはコマ内部においても対称性があります。同じ構図を繰り返しながら、対照的なもの(今回は明るい人と暗い人)を描くことがあります。

 以前、右ページと左ページが同じコマ割りで、それぞれに別の人物の思いを同時並行的に描くというパターンもありました。 

 こういう使い方は「彼氏彼女の事情」において既に用いられていて、修学旅行の時にそれぞれの動きを同時中継するというのがありました(HC10巻 act46 GoGo京都2)。このときは「カレカノ4元中継」と題し、ページを1/4ずつ使ってそれぞれ横に読み進めるようにして3ページにわたり完全同時中継を行いました。これが2000年頃のことです。この頃はコマの数もそんなに少なくないんですが。


 また、最近のコマ割りは基本的に単純です。ほとんどのコマは長方形であり、斜めに切ることは少なく、斜めといっても傾斜は緩やかでほぼ長方形と云って差し支えない程度です。ページ4コマ以下で複雑なコマ割りをやれという方が無理な話ではありますが。

 このコマ割りの単純さは圧倒的な読みやすさをもたらします。変則的なコマ割りでページあたりのコマ数が多くなると、どの順番が正しい順番なのか迷う可能性が相対的に高くなります。少女マンガにおいては斜めの切り口を持つコマというのは珍しくないばかりか、しばしばそれらはかなり傾いています。そして、コマ同士を重ねることも厭いません(このあたりを言葉で説明するのは難しいですね。絵を描くと一発なのに)。対照的に、少年マンガではこのような変則ゴマはほとんど使われません(と経験的にそんな気がする。その意味では津田雅美の最近のコマ割りは少年マンガのそれに近いということになるのですが、そう単純な話でもないんです。

 少年マンガにおいてもページ2コマは少なすぎます。はっきり云ってそんなコマ密度のマンガ見たことないです。さらに付け加えるなら、ページまたぎは立派な変則ゴマであり、見開き一枚意外でページをまたいで何かが描かれるというのは、少年マンガでは見たことがないパターンです(存在しないと断言は出来ないけど、ぱっと思いつかない)。



 以上、特徴的なコマ割りについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

 これらの特徴(大ゴマ、ページまたぎ、単純なコマ割り)は「eensy-weensyモンスター」になって顕著なものですが、カレカノの連載終盤から徐々に見られるようになってきたものです。コマ割りの上で非少女マンガ的なものになりつつある(しかし、少年マンガのそれとも異なる)津田雅美は、これからどうなるのか。71年組の活躍に期待!